人生、笑うことを知らずに終わるのかと思っていた。
しかしそんなの人生を変えたのは、1人の忍だった。
は結構大きな家の一人娘ということに加え、病弱なため、外出は余程のことがないと、させてはもらえなかった。
させてもらえたとしても、たくさんの護衛付き。
正直うんざりだった。
その日も、何もすることがない日々に飽き飽きし、いっそのこと首でも吊ってしまおうかと、縁側で考えていた。
そんなとき、目の前に何かが墜落した。
最初は、鳥でも落ちたのかと思って見ていたが、明細服を着た男が腰を押さえながらむっくりと起き上がってきた。
「あの、大丈夫ですか?」
「あー、うん。あー」
あちゃー、と言いたげだったが、の方は非日常な出来事に興味津々。
裸足で駆け寄ることはしなかったが、縁側に立ち上がって目を輝かせている。
「忍さんですか?」
「あー、うん」
どうにか誤魔化そうかと考えたが、自分の服装を見て、それは不可能だという結論に。
「忍さんでも落ちるんですね」
「うーん、まー」
猿も木から落ちると言いたかったのだろうが、忍だって人間だ。
たまには落ちる。
……たぶん。
しょうがないではないか。
突然主に任務を押し付けられたのだから。
何日も寝てなかったのに。
(欠伸してたら塀から落ちただなんて、死んでも言えない)
その後も次々と質問するに、佐助は帰るにも帰れず、適当に返答する。
しかし食事の時間になったらしく、の侍女がやって来てしまった。
まずい、とが思ったときには、もう忍の姿はなかった。
また来てくれないかな。なんて思ったが、相手は忍。
期待しないことにした。
***
しかし佐助の方はなぜかが気になってしまってしょうがなかった。
何日か経ったある日、覗きに行ってみれば、また少女は縁側に座り込んでいた。
「あ! また来てくれたんですか?」
「なんか、うん」
その日は他愛もない話をした。
その後も、佐助は暇があればのもとを訪れ、適当に話して、侍女などに見付からないうちに帰っていった。
最初はあまり笑わなかったも、次第に笑うようになり、佐助はそんなの表情が好きだったり。
その日ものところから帰ったときだった。
突然信玄に呼び止められ、急の任務を言い付けられた。
その任務内容を聞いたときは、思わず固まってしまった。
珍しい任務というわけでもないというのに。
断ってしまえればどれ程楽だったか。
しかしそんなこと出来るはずもなく、あっさり承諾。
任務だからしょうがない。と簡単に割り切れればどんなによかったことか。
内容は簡単。
一家の暗殺。
なんでも甲斐の脅威になるようなことを企んでいるらしい。
詳細は分からないが、それだけは間違いないらしい。
しかしそれがなぜ、の一家なのだろう。
恐らく彼女は何も知らない。
それでも任務は皆殺し。
女中に至るまで全員。
「…………くそ……」
あの日、あんなヘマしなければ。
あの後再び彼女を訪れなければ。
そうすれば今まで通り、何も考えずに任務をこなすことができたのに。
今更遅い後悔ばかりを胸に抱いて、いつの間にか暗くなった街へと向かう。
忍の足でなら、目的地に辿り着くのにそう時間はかからなかった。
完全に活動を止めている屋敷に忍び込むことなど、難しいことではなく、寧ろ簡単なことだった。
忍び込むのは簡単でも、流石にどの部屋に誰がいるかまでは分からない。
の部屋を除いて。
とりあえずのいると思われる部屋とは逆の方向から、適当にしらみ潰しにする。
佐助なりの気遣いで、静かに忍び込み、相手を起こすことなく殺した。
苦しませることなく、一瞬で。
幸い、起きている人間はいなかった。
残酷にも、以外は。
女中でさえも寝ていたのに、なぜかはいつも通り縁側にいた。
思えば、彼女はいつも縁側で外を眺めている。
「あれ? 佐助さん?」
はそう言った後、月明かりで佐助の姿がよく見えたのか、息を飲んだ。
佐助は何十人も殺した後で、その姿は返り血をたくさん浴びていたからだろう。
「佐助……さ、ん……?」
「ごめんね」
はなんとなくいつもとは違う空気を察し、大体の状況を把握した。
頻繁に自分のもとを訪れてはくれたが、さすがに血を浴びたまま来ることはなかったから。
それに加え、佐助の謝罪の一言。
佐助は任務として、この屋敷に来たんだろう、と予想できた。
そして自分を殺す。
予想ができたところで、納得など出来るはずがなかった。
「……ど、うして……?」
自然と涙が溢れ、声もかすれてしまった。
「どうしてって、命令が全てだからさ」
そうは言ったものの、佐助は混乱していた。
は寝ているものだと思っていたから。
もう任務だと、割り切れていたつもりだったが、会話をしてしまうと、躊躇ってしまう。
「……私」
突然口を開いたに驚いた。
普通は喋れなくなるものではないのか。
しかし、その後の言葉にさらに驚いた。
「佐助さんになら、殺されてもいいです。寧ろ感謝します」
なんで?
そう聞き返したかったが、声が出なかった。
「私、死のうかと思うほど毎日がつまんなかったんです。でも佐助さんがここに来てくれるようになって、楽しかったです」
涙を流しながらも、まだは続ける。
「だから、私は……もう一生分楽しみました」
少女は人生の楽しみというものを全く知らないまま人生を過ごしてきたらしい。
まだだよ。
生きていれば楽しいことなんかたくさんある。
辛いこと以上にたくさん。
そう言ってあげたかったが、この状況では情けにしかならない。
「……ごめんね」
結局それだけしか言えなかった。
その言葉も、彼女に聞こえたか分からない。
そして佐助の手の中の苦無は静かに、彼女の胸に突き刺された。
彼女は涙を流しながらも、最期は笑顔だった。
佐助の耳には最後にの口から紡がれた、ありがとうございました。という言葉がいつまで経っても離れなかった。
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***
過去最長かもしれない。
しかし、これは酷い。
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