まだ十にも満たない幼い少女は、肌寒いと言うには寒すぎる季節になったというのに、裸足の両足をぶらつかせている。
何度も侍女が、信玄の娘である少女を室内に連れ込もうとしたのだが、失敗に終わっている。
なんでも、忍の帰りを待っているらしい。
忍の任務の内容は勿論知らされていないが、もうそろそろ帰ってくるとは聞いたらしい。


「さすけがね、かえってきたらあそんでくれるって、いってたの」


少女――<――は嬉しそうに何度もそう言う。
そしていつも佐助が任務から帰ってくるときに降りる木を見つめている。

いい加減日が傾き始めたので、夕餉の支度をするために侍女は消えていったが、は同じ体制のまま。
そろそろ泣きたくなってきたときに、今まで見つめていた木が少し揺れた気がした。
気のせいかとも思ったが、枝と枝との間から黒い影が覗いているのを見て自然と表情が明るくなる。


「さすけ!」


喜びのあまり、は裸足のまま駈け出したが、木から降り立った佐助を見て、佐助のもとに辿り着く前に足を止めてしまう。

佐助の服にこびりついているそれをは知っている。
一度だけ、それが大量に飛び散った現場に遭遇したことがある。
敵の軍がなんの前触れもなくたちの住む城に攻めてきた時に。
その時は訳も分からず泣き叫んでいた。

そして後に仲間がたくさん死んだことを聞いた。


「さすけ……?」


最初はまた仲間が死んだのかと思った。
しかし今日は軍全体で何やら大騒ぎをすると聞いた気がする。


「それはさすけのち……? それならはやく……」
「違う、俺じゃない」
「え、」


いよいよ困惑し出すの反対向きに佐助は歩きだしてしまう。


!」


反射的に動き出した佐助を追い掛けようとしたはその一言で再び立ち止まる。


「見るな! 見ないでくれ……」


佐助のその言葉の意味を、は知らなかったが、その時少しだけ振り返った佐助の顔だけはずっと忘れられなかった。




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この子、精神年齢何歳よ…


100724