『戦』なんていう単語は、無縁のものだと思っていた。
しかし今はそうは思えない。
考えないようにすればするほど頭から離れなくなってしまう。
A Time . -10-
「さん?」
「……あ、はい!」
「どうしたんです? 手が止まっていますよ」
「あ、すみません」
気がつけば手が止まっていて、意識が遥か遠くにいってしまっていた。
理由は戦が始まるという先程の女中の言葉。
自分には関係ないんだ。
ただ迷惑にならないよう、女中の手伝いをしていればいいんだ。
今は皿洗いに集中しなければ。
そう思おうとしても、つい戦について考えてしまう。
戦というのがどういうものかも知らないのに。
いや、知らないからこそ。
ただの噂話。
デマかもしれない。
今度はそう思うことで、頭から無理矢理離した。
しかしその努力もすぐに崩れたが。
***
「ちゃん、いい?」
「佐助さん?」
やっと女中の仕事を終わらせ、床につこうとしていたところに、やってきたのは佐助。
全てを説明しに。
「夜遅くにごめんねー。でもとりあえず説明しといた方がいいかなーって」
「何をです?」
「戦が始まるって。明日の朝出陣する。ちゃんには直接関係ないんだけど、しばらく俺も旦那も大将もみんないなくなるから」
佐助が言いたいのは、の事情を知る者がいなくなるということ。
他の館の人達には記憶喪失で拾われたということになっている。
あながち間違ってはいないが。
「私は大丈夫です。だから、だから絶対に戻って来てください……みんなで、絶対に」
「もちろん」
その一言だけで随分と安心する。
聞けば、二週間程、今川への偵察任務だったのだが、今川が武田へ出陣する気配を察し、急いで戻って来たのだという。
「戦を知らないちゃんにとって、不安かもしれないけど、この館には直接影響しないから」
「はい、分かりました」
「うん、じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
佐助のおかげで少し安心した。
自分は自分の仕事をしていればいい。
そう思えるようになった。
大丈夫、幸村も佐助も、皆戻って来てくれる。
佐助の話だと、明日の早朝出発だと言っていた。
だったらそれに間に合わせるように朝餉を作らなければならない。
それに。
「悩んだときは、寝るが一番」
自分自身にそう言い、投げやりに布団を被る。
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***
本当に投げやりなのは私。
この長編もついに二桁突入。
次も短くなったらどうしよう。
090825
100117 修正