連れていかれたところは、思いもかけないところ。
そこにいた男たちは皆一様に汗を流していた。
A Time . -09-
「ここは?」
「道場でござる」
そこの空気は、の通っていた道場ととても似ていた。
「道場……」
懐かしい。
自分はこんなにも剣道が好きだったのか。
改めて実感する。
「殿も好きな時に来ればいい」
「でも、私なんかがいたら迷惑じゃ」
「迷惑などではない! 鍛練したいと思う気持ちさえあれば誰でも!」
幸村らしい。
素直にそう思った。
まだ出会って日も浅いが、幸村の人柄がなんとなく分かってきた。
(温かいのは私じゃない。ここの人達)
が無害じゃないとは限らない。
なのにこの館の人達は疑いもせず、優しく接してくれる。
「ありがとう、ございます」
また不意に涙が溢れそうになる。
自分はここまで涙腺が緩かっただろうか。
「では早速鍛錬でござる!」
「あ、はい」
割と動きやすい小袖だったので、軽く袖を括り上げ、ついでに髪も高い位置で結び、竹刀を握る。
そして幸村が捕まえてきた適当な男と向かい合う。
「お願いします」
久し振りに握る竹刀に胸が高まる。
しかし、一度様子見のつもりで打ち込んだものが見事に入ってしまった。
正直言えば、拍子抜け。
見ていた者も、皆唖然としている。
そんな空気を、天井から降りてきた人物が一気に変えた。
「ちゃん、強いねー。意外」
「佐助さん! 何週間か任務なんじゃ」
いくらなんでも早すぎるのではないのか。
何週間かと言っていた任務を1日や2日で終えて来るなど。
「ちょっとワケありでね。旦那、ちょっと大将のところに」
「わかった」
二人の表情はいつになく真面目で。
心なしか他の人たちまでピリピリしてる気がする。
「ではそろそろ、私は女中さんのお手伝いしてまいります」
それだけ言って、逃げるように道場をあとにする。
その後、夕餉の支度を手伝っている時、女中たちの噂話を聞いてしまった。
「戦が始まるらしいですよ、また」
「どことです? 最近はそんな気配はなかったのに」
「今川軍だそうで。佐助様の任務の帰りが予定よりかなり早かったことと関係しているのでしょう」
いつの時代でも女の情報網の広さには驚かされる。
どこから入ってきたんだ、そんな情報。
「戦、か……」
先ほど鍛錬場で出会った人たちも、一歩間違えれば簡単に、戦で命を落とすのだろうか。
「そんなの、嫌」
が我が儘を言ったところで何も変わらない。
しかしこの館の温かい人たちが知らないところで死んでいくなど。
しょうがないんだ。
そう自分に言い聞かせて落ち着かせる。
ここは戦国の世。
平成じゃない。
戦国時代があったから平和な日本がある。
干渉してはいけないんだ。
すればするほど迷惑になる。
それだけは嫌だった。
←Back Menu Next→
***
in鍛錬場。
なぜか佐助を帰還させてしまった。
最初はほんわか侍女やってもらうつもりだったのだが。
090824
100117 修正