みんなを見送る自分は、ちゃんと笑顔で送り出せていただろうか。
A Time . -11-
たぶん笑えてなかった。
でもちゃんと送り出せた。
泣かないで送り出せただけで上出来。
早ければ夕方には帰ってくると言ってはいたが、それはきっとを安心させるための言葉。
恐らく2、3日は帰って来ないだろう。
それまで、女中の仕事は少し減る。
軍が帰ってきた途端に忙しくなるらしいが。
「みんな、無事に帰ってくるでしょうか」
雑巾がけの最中に、つい漏らしてしまった。
しかしそれを聞いた女中は、不安一つ見せずに穏やかな表情をしていた。
「大丈夫です。武田の騎馬隊はそんなに柔じゃないですよ」
そうだ、と思う。
いつまでも心配していたら、死ぬ気で頑張っている人たちに失礼だ。
「そうですよね。失礼ですよね」
「そう! だから沈まない!」
ほら、と背中を押してくれたその女中さんは温かい笑顔で微笑みかけてくれた。
「はい!」
も笑顔で雑巾がけを再開する。
***
その日の仕事は、本当に聞いていた通り、楽なものだった。
いつもより掃除を念入りにしただけで、食事はいつもの半分以下。
その他の雑用も大分減った。
仕事が終わるのもいつもより早かったが、どこか寂しかった。
それは心配などという感情ではない。
ただ単純に寂しかった。
いつもは騒がしい幸村も、共に殴り合いをしていたお館様も、それを見守る佐助も、急にいなくなると寂しい。
まだ出会って日も浅いのに。
「よし、道場行こう」
まだ寝るほどの時間でもないし。
突然そう思い立ち、最も動きやすそうな小袖で道場に向かう。
***
道場には、予想外にもちらちらと人がいた。
恐らく今回出陣しなかった者たちだろう。
こんなところに女中をしている自分がいてもいいのだろうか。
場違いかも。
そんなことを思いながらも、意を決して足を踏み入れる。
「あの、失礼します。どなたかお相手お願いできませんか?」
全員が驚いていたが、その内の一人が何かを思い出したように、あー、と突然声を漏らす。
「噂の子か!」
「噂?」
噂とはなんだ。
女中に関わらず、兵士たちも噂好きなのか。
「この間、多輔に一瞬で一本入れたっていう」
成程、この間の人、多輔って言うんだ。
相変わらず的外れな。
そんなを見て、多輔を、だの、嘘じゃねぇのか、だのその場の者たちは言っている。
その反応を見る限り、多輔という者は弱くはなかったらしい。
(まだ鈍ってなかったみたいで良かった)
それにしても、自分はこんなにも強かったか。
――どうでもいいか。
そう思ったところで、幸村によく似た人物が1歩前に出た。
「私がお相手しましょうか」
「ぜひ、お願いします」
幸村とよく似てはいたが、雰囲気が全く違っていた。
幸村にはない落着きが、その男にはあった。
「私は穴山小介です。あなたは?」
「です」
名前を問われた
は不用意に苗字は言わない方がいいと思い、名前だけ名乗る。
小介の第一印象は好青年。
ここまで幸村と驚くほど似ているのに、ここまで違うのか。
そう思ったが、勿論口には出さない。
「お願いします」
皆が見守る中、は静かに構える。
「お願いします」
小介も一礼し、同じく構える。
一度深呼吸をし、以前と同じように様子見のつもりで一本打ち込む。
流石に以前と同じようにはいかないらしく、軽々とかわされる。
(強い……この前の人よりずっと……)
そう実感する。
そして今度は小介の方から打ち込む。
はそれをなんとか竹刀で受け止める。
(手加減、されてる……)
と小介の実力差は明らかで、自然と小介が手加減する。
その後も同じような攻防が続くが、の体力がもたなくなってきたた。
それを察した小介が腕を下げる。
「そろそろ終わりにしましょうか。暗くなってきましたね」
「ありがとうございました」
手加減されたことは悔しかったが、軽く打ち合ってすっきりした。
清々しいとは別に、その場の空気は驚きで満ち溢れていた。
小介さんとあそこまでやりあえるなんて、と。
そんな空気にが気付く訳もなく、もう一度お礼を言い、自室へと戻って行った。
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***
オリキャラ登場。
前から出すつもりでした、小介さん。
真田十勇士です。
恐らく他の十勇士も出現させます。
因みに、『多輔』と書いて『たすけ』と読みます。
090826
100117 修正