A Time . -03-






佐助に連れて行かれ、まず目に入ったのは赤い青年。
真っ赤なジャケットを着た彼は、そのジャケットに負けず劣らず顔を赤に染めていた。
その光景に疑問符を頭上に飛ばしていただったが、佐助に促され、お館様の前で腰を降ろす。


「ふむ。お主がか」
「は、い……」


威厳のある口調のお館様に、は再び身体を強張らせる。


「そんなに緊張するでない。早速ではあるが、お主の話を聞かせてはくれないだろうか」


想像より遥かに優しい声に、段々身体の力が抜けていく。
そして意を決し、口を開く。

必死に説明している間も、背後から佐助の視線を痛いほど感じる。
少しでも話が食い違えば、迷わず首を裂くつもりなのだろう。
もしくは信玄の一言でか。


しかし信玄の言葉は、の命を奪う一言ではなく、とても優しい言葉。


「そうか。それは不安であっただろう。お主は何も心配せんでいい。この躑躅ヶ崎館でゆっくり過ごすがよい」


その言葉に、何かがふっ切れたかのように涙が溢れた。
視界の端で、幸村があたふたしているのが見えるが、涙は止まらない。


「……ごめん、なさい……わたし……」
「疲れているであろう。湯浴みでもするとよい。着物は用意させる故」


見れば、の服は泥だらけ。


「ありがとう、ございます」


涙を拭き取り、お礼を言う。

湯浴みという単語は聞いたことがなかったが、なんとなく予想はできた。
これから、覚えなければいけないことが多そうだ。
少しばかり歴史に関して、知識の薄い自分を責めた。

やっとのことで落ち着き、ふと赤い青年を見ると、拳を握りしめ、ふるふると震えている。
またもや疑問符を頭上に飛ばしていると、その青年は突然叫び出した。


「……なんという寛大なお言葉! 尊敬しまする! お館様あああああ!!」


いきなりのことに、びくっと肩を震わせると、安心させるかのように佐助が言葉をかけてくれる。


「あー、いつものことだから気にしないで……っていうかたぶん慣れなきゃやっていけない」
「え、そんな日常茶飯事に叫び出すんですか?」


軽く頭がおかしいんじゃないか。
そう思ったが、さすがにそれは胸にしまっておいた。


「んー、なんていうか……叫ぶだけならまだいい方で……」
「え……」


それ以上のことがまだ起こるのか、と思った矢先、ものすごい音と共に、青年が見事に飛ばされた。


「あーいうこと……」


佐助は呆れたようにそう言ったが、の方は平常心ではなかった。


「あの人、大丈夫なんですか? あんなに豪快に飛ばされて……」
「あー、うん。いつものことだし、あれでも一応有名な武将だから。真田幸村って聞いたことない?」
「聞いたことだけなら……」


確かに有名な武将だ。
戦国武将は、皆変わっているのだろうか。
段々常識が分からなくなり、頭を抱えそうになっているところに、佐助が助け舟を出す。


「あー、今女中さん呼んで来るから、湯浴み行っておいで」
「あ、はい。ありがとうございます」


すぐに女中はやって来て、分からないことから何まで世話をしてもらった。
湯浴みの後も、一人では着物の着付けができず、女中に教えてもらいつつ、着せてもらった。
部屋に案内してもらい、やっと緊張がほぐれ、ごろんと寝転がる。


「……これから、どうしよう」


いくら世話をしてもらえると言っても、いつ帰れるか分からないし、面倒を見てもらうばかりだと悪い。
そして何より、不安。
いつ見捨てられるか分からない不安。
いつからこんなに臆病になったのだろう。


(……やめた、やめた)


悩むのも嫌になり、睡魔に身を委ねる。

自分の役目が無ければ、探せばいい。
自分の居場所が無ければ、作ればいい。

そう思うことで、自分を安心させ、早々と眠りについた。




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***
佐助と仲良くなるのって、難しい。
ネガティブなんだか、ポジティブなんだか、どっちなんだヒロイン。


090815
100117 修正